東京地方裁判所 昭和45年(借チ)2019号 決定
〔主文〕本件申立を棄却する。
〔理由〕一、本件申立の要旨
1 申立人は、昭和二二年五月末日ころ相手方から別紙土地目録(一)記載の土地(以下「本件(一)の土地」という。)を、木造その他の非堅固建物所有の目的、期間二〇年の約で賃借し、右賃貸借は、同四二年六月一日法定更新され、現在の地代は一カ月金一四、九五〇円である。
2 申立人は本件(一)の土地のうえに別紙建物目録(一)ないし(三)記載の建物を所有しているが、このうちの一棟同目録(一)記載の建物をその敷地である別紙土地目録(二)記載の土地(以下「本件(二)の土地」という。)の賃借権とともに東京都中野区東中野一丁目二八番五号林正雄に譲渡したが、賃貸人である相手方の承諾がえられないので右承諾に代わる許可の裁判を求める。
二、相手方の答弁の要旨
申立人が、本件(一)の土地を相手方から賃借していることは認めるが、別紙建物目録(一)記載の建物は登記簿上の存在にとどまり現実には存在しない。また、本件(二)の土地のみの譲渡を認めることは残存部分の利用価値を著るしく減殺し相手方に不利益を与えるので許されない。
三 当裁判所の判断
1 本件で取調べた資料によれば前記一の1の事実を認めることができ、右事実によれば、申立人は相手方から本件(一)の土地を適法に賃借していることは明らかである。
2 申立人は、別紙建物目録(一)記載の建物を譲渡しようとし、相手方は右建物は登記簿上の存在にすぎないと主張する。
建物が、譲渡の対象となるためには、右建物の登記の有無または有効、無効によるのでなく、その建物が独立した所有権をもち、取引の対象となることを要し、本件申立は本件(二)の土地のうえに独立して取引の対象となる建物の存在を前提とする。
ところで、前記資料によれば、申立人は、相手方から本件(一)の土地を賃借するに際し、前賃借人から右借地上の東側(道路側)に存した建坪12.25坪木造平家建建物を譲受け、ついでその後右建物の西側に建坪32.25坪の木造平家建の建物を前記建物に接続して増築し、更に、その後その西側に二階建各一九坪の建物を増築したが、その保存登記は、別紙建物目録(一)ないし(三)のとおり、各別個の建物として、それぞれ独立してなされたこと、申立人が当初譲受けた道路側の建物とその西側の増築建物は、屋根部分を接続し、主要な柱を共通にし、その間に壁も存しない一棟の建物として使用されてきたが、申立人は、昭和四五年に至り、右一棟の建物中本件(二)の土地のうえに存する部分の別紙図面中赤線の部分にブロック壁をつくり、この部分が前賃借人より買受けた家屋番号甲九五八番の建物であるとして、その敷地の賃借権とともに、金融を受けている林正雄に譲渡しようとている(以下右建物部分を「本件建物」という。)こと、本件建物は、それじしん独立の建物ではないが、他の建物部分とブロック壁をもつて画され、他の付帯設備も容易に備え付けうる構造上の独立性を有するうえ、店舗等として独立して利用しうるものであり、他方本件建物以外の建物も、本件建物と区画された構造上の独立性をもち、本件建物の北側の巾1.8米の道路により公道に接し、現に鰻製造工場として本件建物から独立して利用され効用を発揮している各事実を認めることができる。右事実によれば、申立人が譲渡しようとしている本件建物は、その余の建物部分と一体となつた一棟の建物の一部であり、独立した建物とはみなしがたいが、一棟の建物中構造上区分され、かつ、独立して店舗等に供することができる区分所有権として分離して譲渡の対象となしうるというべきである。
3 相手方は、本件譲渡は、賃借権の残存部分の利用価値を著るしく減殺するもので許されないと主張する。
賃借地の一部分の譲渡がすべて不適法とすべきではないが、右譲渡が、賃貸人に著しい不利益を与える場合には、借地法九条の二第二項によりその申立を棄却すべきである。しかして、前記認定のとおり、本件譲渡を認めると、その余の賃借地は、間口1.8米、長さ4.40米の通路をもつてのみ公道に接するに至り、残賃借地において建築基準法上適法に増改築が不可能になるほか、残賃借地の奥行が深く、坪数も約五五坪余に及ぶことを考えると、その部分土地の効用は著しく減殺され独立した交換価値を失い賃貸人に著しい不利益を与えるに至るのであるから、本件譲渡は借地法九条の二第二項により許されない。(筧康生)
土地目録
(一) 東京都豊島区池袋二丁目九五八番地一
宅地1,896.85平方米(573.80坪)のうち、215.70平方米(65.25坪(別紙図面中イロホヘトイを結んだ線内の土地)
(二) (一)の土地のうち別紙図面中イロハニイを結んだ線内の宅地32.40平方米
建物目録
(一) 東京都豊島区池袋二丁目九五八番地
家屋番号 甲九五八番
木造板葺平家建店舗
建坪12.25坪(現況一〇坪)
(別紙図面中イロハニイを結んだ線内の建物)
(二) 同所
家屋番号 甲九五番八二
木造板葺平家建店舗
建坪32.25坪
(三) 東京都豊島区池袋二丁目九五八番地
家屋番号 九五八番一一
木造瓦葺二階建居宅
建坪一、二階とも各一九坪